キバスタ

言いたいことを言い、わがままに生きてきたキバショーのスタイルとは?

MENU

秘書室に行くのが楽しみだったあの頃:社内美術鑑賞の思い出

スポンサードリンク

これは、二十数年前、私が大手金融機関で働いていたころの話だから、今は状況が変わっているかもしれない。

当時、私は、秘書室に行くのが何よりも楽しみだった。

このように書くと、

「秘書室に、とびきりの美人でもいたのか?」

などと、早合点する人もいるかもしれないが。今日の話は、そんな色気のある話ではない。

申し訳ない。

 

絵の話ですよ。絵。

エレベーターを降りて、秘書室に行くまでに、数点の油絵とブロンズ彫刻があったんですよ。それを見るのが、当時の私には、何よりも楽しみでした。

「な~~んだ。つまんねーの。たかが、絵のはなしか。」

などと思ってはいけない。

その絵が、実は、すごいんです。

世界的な名画ですよ。おそらく、誰でもが知っているような画家の名画です。

今日は、そんな絵の話です。

 

【スポンサードリンク】
 

 

ある日、私がいつものように働いていると、上司から呼ばれました。

「秘書室に行って、シャインをもらってきてくれ」と。

え?? シャインってなんですか? 

社員? 

まさか。

では、SHINE? 

なんじゃそれ!!!

訳が分からずに突っ立っていると、上司は書類を手渡してきて、

「ここに一つと。それから、ここにも一つ。向こうには電話しておいてやるから、すぐに分かるはずだ。それから、秘書室では、失礼な振る舞いをするなよ」だって。

あ、そっか。社印のことですか。そーですか。そーですか。分かりました。

でも、いちいち、「失礼な振る舞いはするなよ」なんて、念を押さなくてもよさそうなもんだ。

まあ、それだけ、当時の私は、職場では失礼な振る舞いをしていたんでしょうね。

「印鑑をもらうくらい、自分で行けばいいのに」と思いながらも、これも新入社員の仕事なんです。新入社員は、雑用をこなさなければいけないのだ。

 

【スポンサードリンク】
 

 

それで、秘書室に行きました。

エレベーターが開いた瞬間、驚いた。

まず、光が違う。

普通、オフィスは白色蛍光灯を使用しているじゃないですか。それが、秘書室のフロアは、黄色い柔らかい光に包まれていた。

え? なんで?

と思ったが、すぐに理由が分かった。

エレベーターの真ん前の壁に、油絵がかかっていたのだ。縦1メートル、横70、80センチくらいはあるだろうか。これくらいのサイズを何号というのか知らないけれど、とにかく大きな絵だ。

でも、この絵には見覚えがある。湖のそばのお城の絵。印象派の絵みたいだ。

ひょっとして、モネじゃないか? たぶんそうだ。サインを確認してみると、やっぱり、モネだ。

しかも、その横には、同じくらいの大きさのシャガールの絵が。シャガールは、サインを見なくても、一目でわかった。

それから、その横には、モディリアーニの絵が。これも、サインを見なくても、その特徴的な歪んだ女性の絵で、すぐに分かった。

その他に、ピカソの絵もあった。あと、私が知らない名前の画家の絵もあった。そして、廊下の突き当りの角には、ブロンズ彫刻が据えてあった。

 

なるほど、美術品が劣化しないように、蛍光灯を使っていないんだな、と思って、エレベーターを一歩踏み出したところ、びっくりした。

じゅうたんが、あまりにも柔らかかったのだ。

「柔らかいといっても、所詮、じゅうたんでしょ?」

などと思ってはいけない。

感覚的には、柔らかい毛布を二枚重ねたような感触だったのだ。

思わず、これって、靴を履いて歩いてもいいんだろうか、靴を脱ぐべきなのかな、とも思ったのだが。

まさか、社内で靴を脱ぐ必要もないでしょう、と考え直し、そのまま歩いていたが。そのフワフワ感が、心地よさを通り越して、むしろ不快だった。

こんなにフワフワだと、むしろ歩きにくい。

そして、このフロアは、会長室や社長室を始め、役員室で埋め尽くされているフロアなのである。こんなフワフワなじゅうたんだったら、役員のジーサンたちは、つまずかないかな? 

かえって、脚力の弱ったジーサンたちにとっては、危ないんじゃなかろうかと、余計な心配をしたりもした。

 

【スポンサードリンク】
 

 

まあ、じゅうたんの話など、どーでもよい。

で、肝心の美術品の話だが。

その時の私は、その名画に囲まれて、声を失った。美術館級の名画が、今、自分の目の前に、無造作に陳列されているんだから、無理もない。

しかも、全部本物だ。

どうして、それが、本物だと分かったかって?

そりゃ、そうでしょ。日本を代表する大手金融機関ですよ。その役員フロアに偽物があるわけがない。

おそらく、そのフロアでは、経団連などの財界人や、日本を代表する大企業の役員たちを迎えるために、つまり、こけおどしのために、そんな美術品を飾っていたんでしょう。もしそんな美術品が、偽物であったなら、会社の恥になる。

そんなことならば、むしろ何も飾らない方がいいわけだ。だから、これらの美術品をあえて展示しているいじょう、全部本物のはずなのだ。

これらの作品は、みな有名画家の作品だし、しかもかなり大型の作品だから、おそらく1点数千万円以上、なかには1億円近くする作品もあったと思う。合計で、3億円をくだらないんじゃないかな。

 

まさか、こんなところで、モネ、シャガール、モディリアーニ、ピカソなどの名画をタダで見られるなんて、夢にも思わなかった。しかも、美術館ではありえないほど、間近で見られるとは。

ブロンズ彫刻なんて、触っちゃったもんね。スリスリとね。ほんとは、そんなことをしてはいけないのかもしれないけれど。

 

あ、そうだ。用事を忘れていた。秘書室に社印をもらいに来たんだ。

で、社印をもらったんだが。その相手が、いちいち上から目線の嫌なクソ野郎でして。

まだ、若手で入社5、6年くらいのクソ野郎だったでしょうか。

まあ、秘書室と言えば、金融機関では、人事部と並ぶエリートコースですからね。特に、秘書役なんて、将来の取締役候補なんて言われているくらいですから。

だから、秘書室の連中は、高飛車なヤツが多いんだが。

しかし、やっていることは、役員のジーサンたちのお世話と、スケジュール管理だ。

仕事内容がアホすぎる。

秘書の仕事なんて、

男子一生の仕事ではないわ、バカタレ。

そんな仕事、時給850円のパートのオバサンで十分だと思うよ。

その程度の仕事を、いちいち東大や京大卒の社員にやらせるかね。

バカな金融機関だと思いませんか?

男の仕事と言えば、私がやっていたような数百億円のポートフォリオを運用するとか。

あるいは、

数百億円のプロジェクトに融資をして成功させるとか。

そんな、仕事にあこがれるでしょ? 男ならば。

そういう仕事をしてこそ、男でしょうが?

ジーサンたちのお世話と、スケジュール管理なんて、オレならごめんだね

いくらエリートコースとはいえ、そんなところに配属されたら、私などは、すぐに辞めるけどなあ。

 

【スポンサードリンク】
 

 

ま、秘書室の悪口はこれくらいにして。

それ以来、秘書室に行くのが楽しくって。社印をもらいに行くなどという雑用は、本来は、新入社員の仕事なんだが。

それ以降、私が社印担当になった。これは、3年後、私がその会社を辞めるまで続いた。

だって、タダで世界的な名画が見られるんだから、こんなチャンスを逃す人間はバカだと思った。

相変わらず、秘書室の連中は嫌なクソ野郎だったけれど、そんなの一瞬だけ我慢すればいいのさ。名画をタダで見るためだもん。仕方ないよね。

 

しかし、今になって思うんだけれど。

あの名画は、もったいないですよね。一応、展示されているとはいえ、そのフロアを訪れる限られた人たちにしか見てもらえないんだから。

紫外線対策をして、本社ビルのメインフロアにでも飾ればいいのに。一般の人たちが自由に見られるようにね。

警備員もいるし、人がたくさんいるから、かえって盗難などの心配もないだろうと思うんだが。

もう、あれから二十数年が経ったから、あの名画たちはどうなったのか分からないけれど、やはり、いつまでもあのままで飾られているんだろうか?